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一般診療
General Practice
目次
大腸菌は、家畜や人の腸内に多く存在します。ほとんどのものは無害ですが、このうち人に下痢、腹痛、血便などを起こす大腸菌は病原大腸菌と呼ばれています。その代表がO157です。O157について解説します。
「腸管出血性大腸菌O157」は大腸菌のうち、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こす病原大腸菌の代表格です。腸管出血性大腸菌は、毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome、HUS)を起こすことがあります。
腸管出血性大腸菌は、いくつかに分類されています。「O157」「O26」「O111」「O128」「O157」などがあります。
平成8年7月に大阪市堺市では患者数9,000人を超え、児童3人が死亡する食中毒がありました。
食中毒を起こす細菌は、通常100万個以上を体内に摂取しないと感染しません。しかしO157は、100個程度で感染します。ごく少量が食物についても感染します。
経口感染(口から感染)します。O157の潜伏期は4-8日です。
飲み物、食べ物(生肉など)により口から感染し、体内に入ります。その後、大腸まで到達し増殖し、「ベロ毒素」という出血性下痢の原因となる毒素を産生します。
毒素により腸の粘膜が破壊され、ベロ毒素が血流にのり、赤血球、血小板を破壊して全身に毒素が回ります。症例によっては、腎臓(HUS)や脳(脳症)にダメージを受けて死亡することもあります。
感染者のうち大半は、4-8日の潜伏期間後に激しい腹痛を伴った水様性の下痢が頻回に起こります。その後、血便が出ます。
成人で健康な人の場合は、無症状もしくは軽症の場合もあります。
発熱を伴う場合もあります。
怖いのは、溶血性尿毒症症候群(HUS)と脳症です。
HUSは下痢が始まってから4-10日程度で発症します。6-7%に発生するといわれています。
破砕赤血球を伴う後天性溶血性貧血(赤血球が壊れ貧血になる)、急性腎不全(腎臓機能が低下)、血小板減少の3兆候を特徴とします。
症状は、浮腫(むくみ)、乏尿(尿の量が減少)、倦怠感(全身のだるさ)、蒼白(血色が悪い)、出血傾向(血液を固める働きをする血小板数が少なくなり、出血しやすくなります)などが生じます。重症例では傾眠(眠くなりやすい)、幻覚、けいれんなども起こります。
脳症はHUS患者の20-30%が発症します。
症状としては、頭痛、傾眠(眠くなりやすい)、不穏(行動が活発になり、落ち着きがない状態)、多弁(口数が多くなる)、幻覚などでその後にけいれんや昏睡(意識がなくなる)が生じます。
重症例では、死亡することもあります。
大腸菌O157迅速検査;患者の糞便を用いて、免疫クロマト法により直接O157抗原を検出することができます。
また、ほかの細菌と鑑別するため、便を培養して細菌の有無、菌の種類を同定する検査を行います。病原性大腸菌の場合は、さらに検査を追加してどのような種類の菌なのかを同定します。
腹痛、下痢、血便などを起こす疾患が鑑別にあがります。
ウィルスではロタウイルス、アデノウイルス、ノロウイルスなど。
細菌ではサルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌(O157以外のもの)、腸炎ビブリオ、エルシニア、ウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、リステリア菌など。
炎症性の腸疾患です。大腸内にびらんや潰瘍ができるため、出血します。病状によっては大量に出血することがあります。下痢を伴うことが多いです。
対処療法として、整腸剤、水分補給、安静、消化しやすい食事の摂取を行います。
下痢止め、痛み止めは毒素の体外への排出を妨げることがあるため、使用しません。
HUSを合併した場合は、血液透析、血漿交換療法などの専門治療が必要になります。
基本的に食中毒を起こす細菌やウィルスは、加熱により死滅します。
冷凍しても菌は死滅しません。
生肉を使った肉料理を避けることや、肉の中心部まで十分に加熱することが重要です。
特に牛レバーを生食するのはやめましょう。
子供や高齢者、抵抗力が弱い方は、重症化することがあります。
生肉や加熱不十分な肉料理を食べないようにしましょう。
感染者の隔離を行います。感染者と同じものを使わない→タオルの共用は中止(ペーパータオルの使用)、食器なども使い捨てのものを使用するなど。また、感染者の便や嘔吐物を処理する際は、使い捨てのマスクや手袋、エプロンなどをして正しく処理をするようにしましょう。
石けんと流水で十分に手を洗い、逆性石けんまたは消毒用アルコールなどで消毒をしてください。
最近では、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point;ハサップ)という衛生管理方法があります。ハサップは、食品の生産・製造・加工・消費の工程で発生するおそれのある微生物汚染等の危害を分析し、特に原料生産から重点的に管理する事項又は工程を決め、これが守られているかを常時監視するものです。
O157による感染症が疑われるときは、必ず消化器内科を受診しましょう。自己判断で下痢止めを使用しないようにしましょう。毒素を体外に排出しにくくする可能性があります。
一般的な下痢の治療は、安静、水分補給、消化しやすい食事の摂取です。
それ以上の治療が必要かどうかは病状を判断して、医師が決定します。