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おすすめ内視鏡豆知識
Endoscopist Doctor's Knowledge
「通勤電車の中でお腹が痛くなる」
「試験の前になると下痢を繰り返す」
このようなお腹の不調を抱えている人は、もしかすると過敏性腸症候群かもしれません。
みなさんは過敏性腸症候群という病気を耳にしたことはありますか?日本はストレス社会である上に近年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、ストレスが発症の原因と考えられる病気が増加傾向にあります。
過敏性腸症候群もストレスが原因の一つと考えられています。過敏性腸症候群はトイレに行きたくてもすぐに行けない環境で下痢や腹痛に襲われる場合もあるため、外出するのが怖くなるなど心身ともに支障をきたしかねません。
この記事では、過敏性腸症候群の原因や症状、その治療法についてご紹介します。
過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)とは、通常の大腸内視鏡検査では腸に腫瘍や炎症などの異常が認められないにもかかわらず、慢性的に下痢や便秘、腹痛などの症状が数ヵ月続く病気です。
過敏性大腸症候群やIBS(Irritable Bowel Syndrome)と呼ばれることもあります。病名に「過敏性」という言葉が使われているように、腸の動きや働きが過剰に敏感になっている状態を指します。
重症になると通勤や通学の電車に乗れなかったり、大切な行事などに参加できなかったりと日常生活に支障をきたす場合もあります。
比較的20~30代の若い世代に多く見られる傾向がありますが、年齢を問わず発症する病気です。
下痢型は下痢や腹痛が突然起こる状況が続きます。便に粘液が混じる症状はありますが、血便は見られません。外出先や仕事、試験、人との約束があるときに突如として激しい腹痛や下痢に襲われ、心身ともに大きな負担を感じるタイプです。
下痢型は過敏性腸症候群の中でも多い傾向にあり、特に男性に多く見られます。
便秘型は新しい概念として捉えられており、女性に多い傾向があります。便秘型は便意があるにもかかわらず便が出にくく、コロコロとした硬い便や腹部の強い張り、不快感、食欲低下などが主な症状です。
下痢型のように急な腹痛や便意などの不安はありませんが、腸の動きが低下しているため、ガスが出やすいことを心配する人もいます。
交代型は腸の動きが活発になり過ぎるために起こる下痢と、腸の動きが止まってしまった影響で引き起こされる便秘を繰り返すタイプです。
それ以外の症状として疲労感や頭痛、発汗、動悸など自律神経失調症の症状、抑うつなどの精神症状が出現するケースもあります。昔からこのタイプの方は多くみられます。
過敏性腸症候群の原因はさまざまな説が考えられていますが、はっきりと解明されていないのが現状です。しかしながら、ストレスや緊張、不安、食事内容、アレルギーなどが原因となって発症すると考えられています。
ストレスを受けやすい環境にある場合、ストレスが原因で発症する恐れはあります。過度なストレスを受けると、消化管の運動機能が障害され、下痢や便秘を引き起こしてしまいます。
同じ環境下でも症状を発症する人もいれば、しない人もいるので、ストレスが原因と言い切ることはむずかしいのですが、ストレスが大きな影響を与えているのは間違いないでしょう。
食べ物アレルギーや数日経ってから症状が現れる遅延型アレルギーが過敏性腸症候群と関係しているといわれるケースもあります。食物アレルギーが基盤にあると下痢をしやすいため、このように考えられています。
腸に受けるわずかな刺激を痛みと感じてしまうことが考えられます。このケースの場合は、腸よりも脳が過敏になっている状態といえるでしょう。
過敏性腸症候群は症状からある程度診断することは可能ですが、他の病気が隠れていないか調べることが大切です。
日本消化器病学会のガイドラインに記載されている診断基準では以下のように示されています。
〇最近3ヵ月の間に、月に3日以上にわたってお腹の痛みや不快感が繰り返し起こる
〇上記に加えて以下のうち2項目以上該当すること
・排便することによって腹痛などの症状が改善する
・発症時に排便回数の変化がある
・発症時に便形状(外観)の変化がある
大腸の器質的疾患に該当する疾病が隠れていないかを確認することが、過敏性腸症候群と診断するために必須です。
過敏性腸症候群と診断する場合に、否定すべき疾病は潰瘍性大腸炎やクローン病などの「炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)」です。
炎症性腸疾患はストレスなどが原因となり、自分の免疫細胞が腸の細胞を攻撃し腸に炎症を起こす病気です。炎症性腸疾患の症状は、下痢だけではなく血便が現れます。その他にも腹痛や発熱が少なくとも1ヵ月続く場合は、炎症性腸疾患が疑われます。
他の病気が隠れていないことを確定してから診断することがのぞましいので、若い人でもできれば大腸内視鏡検査を行いましょう。
過敏性腸症候群の検査方法は日々の症状などの聞き取りの他に、大腸内視鏡検査があります。
過敏性腸症候群と診断するためには腸内に病気が隠れていないかの確認が必要なため、大腸内視鏡検査が確実で有効な検査方法です。
過敏性腸症候群の場合、内視鏡検査で確認できる明らかな粘膜の炎症があるというケースは少ないですが、顕微鏡レベルや細菌レベルでは細菌層のバランスの乱れや粘膜の炎症が起きている可能性は高いと考えられています。
過敏性腸症候群の治療として最初に行われることは、どんなときに、どのような症状が出るのかなどの確認です。これは医師が疾病を判断するためでもありますが、症状に悩んでいる人自身がどのようなタイミングでどのような症状が出るのか把握することが治療の第一歩です。
症状を思い返してもらうと多くの方は、下痢や便秘のタイミングはほぼ決まっています。仕事をしている人であれば休日には症状が出ず、平日の朝になると必ず症状が出るという人が多くいます。
学生であれば試験前や通学前、または人に会う前に症状が出る人がいます。つまり、腸が過緊張の状態のときに症状が出やすいのが過敏性腸症候群の特徴といえます。
ストレスの多い環境にある人は、仕事や勉強などを長時間続けて行うのではなく、適時休憩してリラックスできる環境を整えることが重要です。
仕事や勉強に集中しているときや寝ているときは症状が出ない人もいるため、なるべくお腹に意識を向けない環境作りなど心理面におけるアプローチが行われます。
性格を変えるのが難しいように、ひとそれぞれの腸の性格を変えるのも難しいと考えてください。ただし、ご自身の腸の性格を理解し、その原因と症状が出現するタイミングを理解できるようになることが重要なのです。つまり、日常生活において自分自身の腸の症状をコントロールできるようになることが目標です。
症状が出現した時に、ああ今回はこれが原因だなと思えるようになることが治療の第1歩です。
心理面でのアプローチの他に、症状によって内服治療が行われます。主に処方される薬は腸の動きを調節する蠕動運動改善薬(ぜんどううんどうかいぜんやく)や整腸剤、便の形を整える薬剤などです。
蠕動運動改善薬は、下痢型にも便秘型にも交代型にも効果が期待できる薬です。その名の通り腸の蠕動運動を調節しますので、下痢で腸の動きが活発な場合は抑える方向に、便秘で腸の動きが低下している場合は動かす方向に、交代型ではその時の腸の状態に合わせて作用します。
整腸剤はビフィズス菌や乳酸菌、宮入菌(みやいりきん)といった腸内環境を整えてくれるものが処方されるケースが多いです。過敏性腸症候群の治療は、整腸剤の持続的な内服により善玉菌を増やすことでお腹の環境を改善することが大切な治療の一つでもあります。
便の形を整える薬剤はいわゆる『消化器官用薬』というもので、一般名称は『ポリカルボフィルカルシウム錠』というものです。薬剤そのものが腸の中で水分を吸収・膨潤することでゲル状に変化し、腸内の蠕動運動をスムーズにして内容物の排泄をサポートしたり、水分過多となった下痢を抑えたり、腸内環境の不調をコントロールする薬です。
薬物療法で症状が改善せず日常生活に支障をきたす場合は、精神科や心療内科の受診をすすめられるケースもあります。
心理療法ではカウンセリングが行われ、日々の悩みに対して助言や普段は話しづらいことなど聞いてもらうことで問題を解決していきます。
過敏性腸症候群は治療の他に、日常生活の見直しで改善が期待できます。排便の有無にかかわらず毎朝必ずトイレに行き、排便習慣を身につけるようにしましょう。
そのためには、夜更かしせず規則正しい生活を送ることが大切です。
その他にも下痢の原因となる脂質の多い食事や乳製品をとり過ぎない、腸内環境を整えるために発酵食品や食物繊維を積極的にとるなど食生活を見直してみましょう。
過敏性腸症候群は下痢や便秘、腹痛などに襲われ、重症化すると日常生活に支障をきたす恐れがある病気です。
症状などによりおおよその診断ができる病気ではありますが、似たような症状が見られるその他の病気もあります。
これくらいなら大丈夫だろうと自己判断せずに、お腹の不調が続いた場合は早めに病院を受診し、医師の指示に従って大腸内視鏡検査など必要な検査を受けましょう。
ストレスは過敏性腸症候群の原因と考えられていますが、それ以外の病気の原因にもなっています。
健康的な毎日を送るために、自分なりのストレス解消法を見つけ、規則正しい生活を送るように心がけましょう。
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