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虚血性腸炎とは?診断・治療方法を解説

  • 疾患・症例

虚血性腸炎という疾患をご存知ですか? 

高齢者に多い疾患といわれていますが、慢性的に便秘がある場合は若年層でも罹りやすい疾患です。便秘だけではなく、ストレスや生活習慣が引き金になることもあります。 

そこで今回は、虚血性腸炎について診断や治療方法を解説します。

1. 虚血性腸炎とは

便秘でお腹が痛い高齢女性

虚血性腸炎とは、何らかの原因により大腸の粘膜の中にある血管の血流が阻害されることによって、大腸粘膜に炎症が起きびらんや潰瘍ができる疾患です。 

大腸には、上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の2つの動脈があり、大腸に栄養を送る役割を担っています。下行結腸は、上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の栄養に影響されるため虚血に陥りやすく、虚血性腸炎の好発部位です。 

虚血とは、主に動脈の血流量が低下、途絶することです。糖尿病、脂質代謝異常、血管炎など血管因子の疾患や、便秘、加齢に伴う動脈硬化、ストレスによる血管収縮などが引き金になります。 

虚血性腸炎には、大きく分けて一過性型、狭窄型、壊疽壊死型の3つがあります。もっとも多いのが一過性型で、全体の約65%を占めます。次に多いのが狭窄型で、全体の25%を占め、残りの10%が壊疽壊死型です。

1-1. 一過性型

一過性型は全体の65%を占め、ほとんどの虚血性腸炎は一過性の虚血です。血流が改善し回復すると、短期間で正常な大腸粘膜に治癒するのが特徴です。

1-2. 狭窄型

狭窄型は、炎症が持続することで血管壁が肥厚し血管内腔が狭くなり血流低下を引き起こします。さらに発症から1か月を過ぎても潰瘍が残存し、管腔狭小化が続くケースがあり、症状が長期に渡る場合があります。 

内視鏡によって大腸狭窄が確認された場合は、内視鏡による腸管拡張術や外科的切除術が必要になることもあります。

1-3. 壊疽壊死型

壊疽壊死型は腸管の血流が回復しないため、必要な酸素や栄養が血液から得られなくなり、腸管が壊死してしまった状態です。壊死したことで炎症が腹部から全身に広がり、腹痛や敗血症性ショックを併発するリスクがあります。

2. 虚血性腸炎の原因

キッチンで悩む女性

虚血性腸炎の原因の主なものは、下記の4つです。 

・ストレス 
・便秘 
・動脈硬化 
・生活習慣や食生活の乱れ 

上記の原因は、一過性に起こることが多いですが、繰り返して起こり慢性化することでより虚血性腸炎の重症リスクが高くなります。

2-1. ストレス

ストレスによって自律神経が乱れると、血流にも影響が現れることがあります。自律神経は、末梢神経の一つで体全体に張りめぐらされているのです。 

強いストレスを感じている状態では、交感神経と副交感神経のバランスが崩れます。交感神経が優位になると、アドレナリンの過剰作用が原因で血管が収縮することで血流が悪くなり、血流低下が長引くことで内臓の機能低下、臓器不全に至るケースもあります。

2-2. 便秘

慢性的な便秘は、長期間大腸に便が留まっている状態で、腸管壁が便により圧迫されている状態です。腸管壁とともにその周辺にある血管も圧迫されるため、血流が悪くなり虚血を起こします。 

すでに虚血性腸炎になっていることを知らないで、排便時に無理に便を出そうといきむと圧迫していた漿膜や筋層が割け、腹腔内出血を起こすケースもあります。便秘が続いており、突然の腹痛や下痢、血便の症状が出た場合は虚血性大腸炎の可能性がありますので、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。

2-3. 動脈硬化

動脈硬化は、血管の弾力が失われ血管自体が硬くなった状態です。高血圧、高脂血症や糖尿病により血管壁に血栓が生じたりプラークができたりすることで、血管内腔が狭くなり血流が低下することで虚血に陥りやすくなります。 

血管は、通常は加齢性変化に伴い硬くなりますが、若年層でも生活習慣や食生活によって動脈硬化が進行します。 

動脈硬化が進行し、大腸粘膜への血流が不足することで、虚血性腸炎を引き起こします。特に高齢者で虚血性腸炎が多い理由は、高齢になるほど、動脈硬化や便秘に罹っている方が多いからであると考えられています。

2-4. 生活習慣や食生活の乱れ

生活習慣の乱れによって、ストレスが溜まりやすい環境因子が増えることが考えられます。たとえば、睡眠不足により疲労が軽減されない生活が続くこともあるでしょう。 

アルコールの摂りすぎや脂っこいものを好んで食することは、動脈硬化につながることが考えられます。 

つまり、上記に挙げた他の3つの原因の根源になるのが、生活習慣や食生活の乱れです。規則正しい生活リズムを心がけ質のいい睡眠を取れれば、ストレスも軽減できます。また、定期的に行う運動も、ストレス解消や健康的な体を維持することにつながります。 

生活習慣や食生活の乱れは、虚血性腸炎の原因だけではなく、あらゆる疾患の引き金になりかねないため、できることからはじめましょう。

3. 虚血性腸炎の症状

腹痛の高齢男性

虚血性腸炎の症状には、主に3つあります。 

・左側腹部から下腹部の腹痛 
・下痢 
・血便 

左側腹部から下腹部のあたりに、虚血性腸炎の好発部位である下行結腸やS状結腸があります。そのため、腹痛もその部位に起こることが多いです。 

強烈な腹痛が起きしばらくすると下痢と血便の症状を認めることが多くみられます。

4. 虚血性腸炎の診断方法

血液検査

虚血性腸炎の診断をするには、4つの検査方法があります。 

・血液検査 
・腹部エコー 
・大腸内視鏡検査(大腸カメラ) 
・腹部CT検査 

それぞれの検査の特徴を知っておくことで、医師の説明も理解しやすくなります。

4-1. 血液検査

血液検査では、主に炎症所見の指標である白血球やCRP値が異常値でないかを調べます。大腸粘膜に炎症や細胞の壊死がある場合には、白血球の数やCRP値が上がるためです。通常、症状の性状、腹痛部位、下痢などを確認し、その後に血液検査を行います。炎症の程度や下血による貧血の有無を確認します。 

ただし、CRP値や白血球数の上昇は虚血性腸炎特有のものではありませんので、この値だけでは診断できません。そのため、後述する画像検査の所見と合わせて診断します。

4-2. 腹部エコー(超音波)検査

腹部エコー検査は、体表から超音波を当て大腸の粘膜壁の状態を確認し炎症が起きているかどうかを診断します。炎症を起こした粘膜壁は浮腫んでいることが多く通常よりも厚くなるのが特徴です。 

虚血性腸炎は、問診と腹部エコーで診断がつくケースがほとんどです。 

ただし、それ以外の症状があるような場合やエコーで判断がつかなかったときには、大腸内視鏡検査を行う場合もあります。 

大腸内視鏡検査を行う場合には、出血しやすく痛みを伴うケースが多いので、症状が少し落ち着いてから、検査を行う場合が多いです。

4-3. 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は肛門部から内視鏡スコープを挿入し、盲腸から肛門部にかけてリアルタイムで腸管内粘膜の画像を見ながら行う検査です。 

大腸内視鏡検査では、腸内の炎症状況や範囲を確認できます。また、びらんや炎症以外の病変や異常も発見可能です。粘膜のむくみ、ただれ、発赤、潰瘍が発見されれば、虚血性腸炎の診断がされます。

4-4. 腹部CT検査

腹部CT検査とは、X線を使い腹部の状態を断層画像を撮影して観察する検査です。通常は大きな病院で行う検査方法で、詳細な観察のために大腸を膨らませるために肛門部から炭素ガスを注入することもあります。 

その場合、事前に行う前処置では下剤や造影剤を使用しますが、大腸内視鏡検査に比べて飲む下剤の量が少量で体への負担を軽減できるのが特徴です。また、検査時間も約10~15分と短時間で終了します。 

羞恥心や痛みの心配があり大腸内視鏡を受けることに抵抗がある場合や、腹部の手術後で内視鏡が入りにくいと判断された場合には、腹部CT検査を選択することがあります。 

ただし、イオン性ヨード造影剤を検査で使用するためヨードアレルギーがある方や、被ばくの影響があるため妊娠中や妊娠の疑いがある方は検査が受けられません。

5. 虚血性腸炎の治療

点滴

虚血性腸炎には、一過性型、狭窄型、壊疽壊死型の3つがありそれぞれ治療方法が異なります。

5-1. 一過性型

一過性型は、一時だけ血流が低下し炎症が起きた状態です。血流が回復すれば、炎症も治まります。一過性型と診断された場合には、絶食と安静で腸を休ませることが主な治療です。 

絶食中は、脱水を防ぐため点滴で水分を補給し、症状や病状に応じて食事を少しずつ再開します。安静期間の目安は1~2週間とし、炎症が改善しない場合には抗生物質が処方されることもあります。

5-2. 狭窄型

強い腹痛や下痢症状が長く続く場合には、外科的処置が行われることがあります。外科的処置で回復した場合にも虚血性腸炎の根本的な原因が解決していないことで、同じような症状を繰り返す恐れがあります。 

便秘や動脈硬化などの原因を解決し、治療することも重要です。 

5-3. 壊疽壊死型

壊疽壊死型では、大腸の一部が壊死している状態です。外科的粘膜切除術によって、壊死した腸管を切除し、その後の炎症の回復を観察していきます。

6. 虚血性腸炎と似た症状を持った疾患

腹痛の男性

血便や下痢、腹痛といった症状が起こるのは、虚血性腸炎だけではありません。大腸がんによってこれらの症状が現れることがあるのです。それ以外にも、感染性腸炎、大腸憩室炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などの可能性もあります。

7. まとめ

男性医師

虚血性腸炎は、大腸周辺の血管がなんらかの原因によって狭くなり血流が悪くなることで起こる病気です。特に便秘や動脈硬化がある場合には、高い確率で罹患することもわかっています。 

また、虚血性腸炎と同じような症状が出る疾患もいくつかあるため、腹痛と血便の症状がある場合には専門医を受診し早期診断や治療することが大切です。

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