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Endoscopist Doctor's Knowledge
健康意識の高まりを受け、健康を維持するためのさまざまな情報がテレビやSNSでも発信されています。皆さんは、健康維持のために取り組んでいることはありますか?
健康と食事には密接な関係がありますが、食事の際に喉に違和感を覚えたり、嘔吐してたりして、食事がうまく取れていないと悩んではいないでしょうか?
食事の際に喉に食べ物が詰まる感じや吐き気、もしくは嘔吐することがあれば、注意が必要です。これらの症状は、食道がんでも見られるケースがあります。
自覚症状を伴う食道がんは進行しているケースが多く、早期発見が難しい病気です。何かしらの自覚症状を感じたときは、早めに受診することが大切です。
ここでは、食道がんの原因と初期症状、治療法について解説します。
日本人の三大死因の一つである「悪性新生物」、つまり「がん」にはさまざまな種類があります。食道がんもその中に含まれる疾病で、2019年に発表されたがん統計では、人口10万人に対して20.9人が罹患しているとあります。
大腸がんの罹患率123.3人と比較すると、罹患率は低い病気ではありますが、自覚症状が現れたときには、進行しているケースが多いといわれています。
食道は咽頭(いんとう)と胃の間にある管状の臓器です。食道は上半身の体幹中心部に位置しており、気管や心臓、肺などの臓器や背骨に囲まれ、周囲には多くのリンパ節があります。
食道は「頸部食道」「胸部食道」「腹部食道」の3つに分けられています。食道の壁にあたる粘膜は内側から外側に向かって、粘膜上皮(ねんまくじょうひ)、粘膜固有層(ねんまくこゆうそう)、粘膜筋板(ねんまくきんばん)という3つの層からできており、粘膜の下には粘膜下層(ねんまくかそう)、固有筋層(こゆうきんそう)、外膜(がいまく)があります。
食道の役割は、口から入ってきた食べ物を胃に送り込むことです。うまく食べ物が胃まで到達できるように、食道の粘膜から粘液が分泌され、筋肉でできている食道の壁がぜん動という波をつくって食べ物を胃の方向に向かって送り出す仕組みになっています。
また、食道の出口(胃の入り口部分)には胃の内容物の逆流を防止する役割がありますが、食道自体には食べ物を消化できる機能がありません。
食道がんは、その名のとおり食道に悪性腫瘍である「がん」ができる病気です。食道がんは食道のどの部分にもできますが、日本人が罹患する食道がんのほとんどが扁平上皮がんといわれるもので、部位の約半数は食道の中央付近にでき、次に多いのは食道の下部です。
がんは食道粘膜表面から発生し、横に広がっていきますが、それと同時に根を張るように粘膜の深いところに浸潤していきます。そして、そのがんの根の深さにより進行度が決まります。「早期食道がん」は粘膜の表面のみつまり粘膜内にとどまります。しかし、進行していくと粘膜下層にまで及ぶ「表在型食道がん(ひょうざいがたしょくどうがん)」やさらに深い固有筋層までがんが及ぶ「進行食道がん」になっているケースもあります。
食道がんは大きくなっていくと粘膜よりも深い層へと広がっていき、さらに隣り合わせてる気管や大動脈など食道の周りにある臓器にまで直接がんが浸潤してしまうケースがあります。周囲の臓器まで広がることを「直接浸潤(ちょくせつしんじゅん)」といいます。
また、がんが恐ろしい病気だといわれる原因の一つにあげられる転移とは、がんが食道の粘膜内にあるリンパ管や血管に侵入し、リンパ液や血液とともに食道以外のリンパ節や他の臓器へとがんが移っていく状態のことです。
がんの早期発見には症状を見逃さないことが大切ですが、早期食道がんと進行がんでは症状に違いがあります。
早期食道がんには、ほとんど症状はありません。早期食道がんは、食道粘膜の表面に小さいがんができている状態です。早期食道がんのほとんどが陥凹型もしくは平坦表面型です。隆起型は少ないため、食べ物が食道を通過する段階では、症状はでないケースがほとんどです。
進行食道がんは、がんの進行に伴い食道内腔に向かって大きくなった腫瘍が狭い食道を塞ぎ、食べ物などが物理的に通らなくなるので、食べ物が喉の奥につかえているような感じや嘔吐などの症状が現れ、特に食後すぐの嘔吐は、進行食道がんの典型的な症状です。
食事の際に繰り返し嘔吐する場合は、基本的に食道を含めた部位でがんの閉塞症状が起きている恐れが大きいと考えられます。このような症状はがんだけに見られるわけではありませんが、食べ物がつまる感じがする場合は、食道がんが隠れているケースが少なからずあるので、やはり医療機関の受診が必要です。
進行食道がんになると痛みを感じるのではないかと思うかもしれませんが、食道にがんができただけでは痛みは感じません。しかし、食べ物が通過する際に「がん」にあたることによって食道が膨らみ、食道の壁が拡張する圧力によって痛みが生じるケースはあります。
食道がんには「扁平上皮がん(へんぺいじょうひがん)」と「腺がん」の大きく2種類あります。日本人が罹患する食道がんの約90%が扁平上皮がんですが、欧米では腺がんが多い傾向にあります。
扁平上皮がんは、上皮ががん化したもので、食道全体にがんができるのが特徴です。最近の研究では、扁平上皮がんは「アルコール関連発がん」といわれており、発症にはアルコールが大きな影響を与えると考えられているのです。
欧米に多く見られる腺がんは、胃と食道のつなぎ目にがんができ、逆流性食道炎によって発生したバレット食道を背景としたバレット食道腺がんといわれています。
実は咽頭がんも扁平上皮からできており、アルコール関連発がんと言われています。食道がんの10%に咽頭がんが、咽頭がんに10%が食道がんを合併していると考えられています。
日本人に多い扁平上皮がんが、アルコール関連発がんと呼ばれるのには理由があります。人は通常、アルコールを分解する酵素を持っています。この酵素を「アルコール脱水酵素」といいます。
一般的に、日本人はアルコール脱水酵素の働きが弱い人が多く、この酵素を持っているかどうかは、アルコールを摂取した際に、顔が赤くなるかどうかで判断できます。アルコールを飲むと顔が赤くなる体質の方を「アルコールフラッシャー」といいます。
アルコールががんを引き起こす原因は、アルコールが肝臓内で分解されてできた中間代謝物質であるアセトアルデヒドによるものです。このアセトアルデヒドが顔を赤くする原因なのです。アセトアルデヒドは発がん物質で、分解されずに体内に留まると食道の粘膜上皮に慢性的な炎症を引き起こし、やがてがん細胞ができるといわれています。
扁平上皮がんは、アルコール関連発がんの代表的な疾病です。アルコールフラッシャーではない方は、アセトアルデヒドを分解できる酵素があり、欧米人と同じように食道がんになりにくい体質と考えらています。また、アルコールを飲まない方も食道がんにはなりにくいです。
食道がんのリスクが高いのは、初期には顔が赤くなっていたフラッシャーの方が、アルコール飲用により耐性がついてしまうと、アルコールに強いと思ってしまいアルコールを長期にわたり大量に飲み続けるケースです。
食道がんという病名はよく耳にしても、罹患率も高くないため、詳しいことは知らないという方も多いと思います。
ここでは食道がんに関する疑問について解説します。
食道がん患者が咽頭がんを併発しているケースは、比較的多いです。その理由は、咽頭と食道は部位が近いこともありますが、同じ重層扁平上皮だからです。約10%の割合で、食道がんになると咽頭がんを併発しています。
また咽頭がんも同じで食道がんに約10%の割合で罹患しています。これは、アセトアルデヒドが体内にまわっているので、食道にも咽頭にも持続的に炎症が起きている恐れが高いからです。
お酒という嗜好品の好みを考えると、一般的には男性のほうが多い傾向にあります。しかし、アルコールの摂取については、性別は関係ありません。キッチンドランカーという言葉があるように、女性でもアルコールの摂取量が多い方や、職業として日常的にアルコールを飲む方もいるので、男女問わず罹患するリスクはあります。年齢的には、中高年に多いです。
極まれに子宮頸がんと同じHPV(ヒトパピローマウイルス)で扁平上皮がんを発症するケースがあります。パピローマの原因ウイルスが粘膜に感染し遺伝子変化を引き起こし、そこにがんを発生させると食道がんになる恐れがあるからです。
アルコールをまったく飲まない方で食道がんを発症した場合、HPVが原因と考えられ、アルコールで発症した食道がんと比較すると、抗がん剤の効果に違いが見られるケースがあります。
アルコール濃度が高いほうが、食道がんになるリスクは高くなります。それの理由として、アルコールを分解するときのアセトアルデヒドの血中の濃度が高くなるためです。ウイスキーなどをストレートに大量に飲む方は、注意が必要です。
日本人に多くみられる食道扁平上皮がんの原因は、アルコールです。アルコールを飲んですぐに顔が赤くなる方(アルコールフラッシャー)は注意が必要です。
早期の食道がんは初期症状がないため、食べ物がつまったり、食後すぐに嘔吐するような症状があったりした際には、がんが進行している恐れがあります。
食道がんの早期発見には、食道と胃を同時に観察できる胃内視鏡検査を定期的に行うことが大切です。気になる症状がある方は、早めに消化器を専門とする医療機関を受診しましょう。
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