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Endoscopist Doctor's Knowledge
食道は、咽頭(のど)と胃の間をつないでいる筒状の臓器です。この筒を構成している壁は、内側から外側に向かって粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、外膜という層から構成されおり、最も内側の粘膜上皮は重層扁平上皮という組織で覆われています。
日本人でみられる食道がんの90%以上は、この食道壁の一番内側の粘膜上皮である重層扁平上皮から発生する扁平上皮がんです。食道がん(食道扁平上皮がん)は60~70歳の男性に発症しやすいと言われています。バレット食道から発生する食道腺がんは日本では約10%程度と少ないですが、欧米では食道がんの50%以上を占めると言われています。
食道がん(食道扁平上皮がん)は同時多発や異時性多発(時間をあけて最初にがんが発生した場所と違うところに新しいがんが発生する)しやすく、重複がん(食道がん以外の別の臓器にも同時または異時性にがんが発生する)の割合が約20%もあると報告されています。食道がんの重複がんとしては、胃がん、頭頸部がん(咽頭がん、喉頭がんなど)などが多いと報告されています。
食道がんの原因もさまざまな研究からわかってきています。原因を知っておくことで、食道がんになるリスクを低くすることも可能です。日本人に多い食道がんは食道粘膜由来の食道扁平上皮がんと言われ、主な原因は、喫煙と飲酒です。毎日1.5合以上の飲酒や20本以上の喫煙をする人は、飲酒や喫煙をしない人に比べて30倍以上の発がんリスクがあると言われています。
①飲酒
近年の研究でアルコールによる食道がんの発生が明らかになりました。飲酒により摂取されたアルコールが体内で分解されることによって生じるアセトアルデヒドは発がん性物質と考えられています。このアセトアルデヒドが顔を赤くする原因と考えられていて、アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが生まれつき弱い人は、食道がん(食道扁平上皮がん)の発生する危険性が高いと報告されました。
アルコールが分解されることでできるアセトアルデヒドは、発がん物質とされており世界保健機構(WHO)でも認定されています。先程述べた、飲酒すると顔が赤くなる方は「フラッシャー」と呼ばれ、「ALDH2」というアルデヒド脱水素酵素の働きが弱いためアセトアルデヒドを分解しにくい体質である場合が多く、食道がんのリスクが高くなると考えられています。特に少量の飲酒ですぐに顔が赤くなっていた人が、だんだん飲酒に慣れて耐性が付くと赤くなりにくくなり、時間的経過により飲酒量が増えると、食道がんができる可能性が何十倍も高まると言われています。
お酒を飲んですぐに気持ち悪くなってしまう人は、このALDH2を全く持っていない可能性が高く、これらの人は日常的にアルコールを全く飲まない事が多いので、食道がんのリスクは低いと言えるでしょう。
日本人の約44%は、ALDH2を持たないか、その働きが弱くアセトアルデヒドが貯まりやすいのです。この遺伝的性質は、日本人などのモンゴロイド特有のもので、アフリカ系やヨーロッパ系の人種には見られません。
たくさんの飲酒を長期間続けるひと、喫煙と飲酒の両方の習慣がある人は、その危険性がより高まると考えられています。また、熱い物の摂取も食道粘膜への炎症が起こりやすく、食道がん(食道扁平上皮がん)の危険性を高めると考えられています。
②喫煙
たばこの煙には、4000種類以上の化学物質と250種類以上の毒物、発がん物質が含まれています。
たばこを吸わないから安心ということはなく、周囲に喫煙者がいることで副流煙を吸ってしまうのです。たばこを吸わなくても、他者の吸ったたばこの煙を吸うことを「受動喫煙」といいます。受動喫煙は、自分が喫煙者でなくともたばこを吸っているのと同じ状態です。
例えば20年間1日20本たばこを吸った人の場合、吸わない人の約5倍のリスクになるといわれています。
③胃酸逆流
胃粘膜がピロリ菌に感染していない人は、胃本来の働きである胃酸の分泌がきちんと保たれているため、様々な原因で胃酸分泌が亢進している事が多くなってきています。現代では食事量が多い、カロリーが高い、刺激物摂取(辛い、しょっぱい、甘いなど)や油濃い物が多いために、消化酵素である胃酸が多くなることで胃酸過多の状態になり、胃酸逆流に伴う逆流性食道炎による炎症が持続することで、胃と食道のつなぎ目に生じるバレット食道がんになりやすいと考えられているのです。バレット食道がんは、胃酸の逆流によって元々食道だった粘膜が胃に置き換わって治るバレット上皮から発生する腺がんで、いわゆる欧米型のがんと言われていて、ピロリ菌の感染が低い若い世代に増加している、今後さらに増加していくと考えられている食道がんのタイプです。
一方で、ピロリ菌に感染しピロリ菌除菌をした方も注意が必要です。胃がんのリスクを下げるのがピロリ菌の除菌ですが、除菌後に注意しなければいけない事の一つに胃酸過多があります。ピロリ菌がいた時には、胃酸分泌機能が低下しているため空腹時にも胃酸が多く出ることがあまりありませんでしたが、胃がんリスクの高いピロリ菌を除去したことで、胃の働きが正常化し、食事量の増加やストレスなどにより胃酸分泌が多くなることが予想されます。胃酸逆流により逆流性食道炎が生じて食道粘膜に炎症が起こりやすくなり、慢性的な炎症によってパレット食道が生じ、このバレット食道が腺がんの発生リスクに大きくかかわっています。欧米人ではこのバレット食道が口側の食道に向かって長く伸びていくLSBE(ロングセグメントバレット食道)が圧倒的に多いため、食道がんと言えばバレット食道腺がんと考えられています。
④咽頭がん、胃がんの方
咽頭、口腔、舌などにできるがんを患った場合や、治療中の場合にも食道がんのリスクが高くなります。
食道の粘膜と口腔咽頭の粘膜は同じ重層扁平上皮であるため、食道がんは、耳鼻科領域の他のがんと重複しやすいという特徴があるからです。食道がんの10%が咽頭がんのリスク、咽頭がんの10%が食道がんのリスクを持っていると考えられています。
またField Cancerizationといって、上部消化管領域のがんが重複することも知られています。がんは遺伝子のトラブルから発生しますので、胃がんと食道がんが同時に発生する、もしくは時間を異にしてそれぞれが発生することがあります。
食道がんは、発症初期には無症状で、思い当たる症状が出たときには、進行がんになっていることが多いです。喉や食道に「チクチク」「しみる」感覚が現れるのも人によって異なります。症状が出ないまま進行してしまうこともあるのが、食道がんです。
特に30-60歳代の女性に多く、ほとんどの方が、「耳鼻科に行ったが異常なしといわれた」「他院で逆流性食道炎かもしれない」と話されます。こういった喉のつまりや食道の違和を感じる人は実際に胃カメラ検査を行うと内視鏡的には異常所見が無く、「咽喉頭異常感症」と診断されることが多いです。
胃カメラ検査後に異常なしと診断されると、多くの方が安心して症状が無くなることがあります
末期の食道がんは、リンパ節・肺・肝臓・骨・脳などに転移がみられます。他の臓器にがんが転移した場合、全てのがんを取り除くことは困難です。そのためがんの完治ではなく、進行を遅らせる治療が主になります。
レントゲン造影検査では、初期の食道がんを見つけることはできるのでしょうか? 初期の食道がんのほとんどは平坦もしくはわずかな陥凹を呈する病変です。かなり進行した食道がんであれば検出できる可能性が高いですが、初期の食道がんはレントゲン検査ではほとんど見つからないと言っても過言ではありません。
食道がんを早期で発見するためには、内視鏡検査を定期的に行うことがもっとも有効な方法です。
早期の食道がんでは食道粘膜の表面にわずかな陥凹を呈するぐらいの病変なので、症状を感じることはまずありません。
通常観察では発赤を認めますが、NBI観察ではBrownish Areaと呼ばれるやや黒みがかった範囲で認識されます。
食道がんが進行してくると食道内を塞ぐようになり、食事の通過障害が出現してきます。通過に時間がかかるようになって、食べものが通過できずに充満してしまうと、胸やけ症状を生じてきます。
進行食道がんです。食べ物が通過しにくいぐらい大きくなってしまい、胸やけ症状を感じてしまいます。
食道と胃のつなぎ目部分を食道胃接合部といいます。逆流性食道炎による度重なる炎症により傷ついた食道粘膜は、胃の粘膜として治ってしまうことをバレット食道といいます。
食事の欧米化により、欧米諸国に多くみられるバレット食道が原因のバレット食道がんが日本で近年増加傾向です。特に若い世代のバレット食道がんが増加してきており、注意が必要です。食事が通過しにくくなり、胸やけ症状を生じます。
食道と胃の境目にできたバレット食道がんです。食道と胃の境目は狭いため、あまり大きくない腫瘍でも食べ物が通過しにくく、逆流症状による胸やけがでやすいとされています。
食道がんの治療としては、大きく分けて内視鏡治療、外科手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療の4つがあります。進行度に応じた治療法の選択が必要となり、患者様の状態にあわせて単独または組み合わせた治療を行います。
内視鏡治療は、胃内視鏡(胃カメラ)を用いて食道の粘膜にあるがんを切除する方法です。がんの部分だけしか切除できないため、リンパ節転移がない病期(ステージ)分類0の壁深達度(T因子)T1aの粘膜内病変が治療の対象となります。
現在は内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:enodoscopic submucosal dissection)が主流です。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)は電気メスを用いて、病変を一つの塊として粘膜を切除する治療です。切除対象となる病変のサイズに制限はありませんが、周在性といって食道がんが横に広がりどのくらい覆っているかが治療できるかどうかの基準になることもあります。
病期(ステージ)分類Ⅰ~Ⅲの食道がんに対する標準治療です。食道がんの部位を含めて食道を外科的に切除します。がんが胃に近い部位にある場合は胃の墳門部も一緒に切除することもあります。通常周囲にあるリンパ節を併せて切除します(リンパ節郭清)。切除された食道の代わりに、主に胃を用いて再建術(新しい代用の食道を作る手術)を行います。
抗がん剤を用いた治療を化学療法と言います。
食道がんの病期(ステージ)分類により治療の目的が変わってきます。
1) 病期(ステージ)分類Ⅰ~Ⅲの食道がん
近年、外科手術加療を行う場合は、手術加療による治療成績を良くするために術前化学療法を行うことが多くなってきています。
患者様が外科手術を希望しなかった場合や体力や基礎疾患の関係で手術が出来ない場合は、化学療法と放射線治療も組み合わせた化学放射線療法で治癒を目指すこともあります。
このステージの食道がんの標準治療は外科手術ですが、食道がんは放射線治療の効果が高いため、化学放射線療法の治療成績が向上しつつあります。
2) 病期(ステージ)分類Ⅳの食道がん
食道以外の他臓器への血行性の遠隔転移がある病期(ステージ)分類Ⅳaや隣接臓器に接しているⅣbでは、手術でがんを取り除くことができないため、がんの縮小を目指して延命治療を目的とする化学療法を行います。食道がんは化学療法と放射線治療を組み合わせる(化学放射線療法)と治療の成績が良く、病期(ステージ)分類Ⅳであっても、姑息的な化学放射線療法を行うこともあります。
放射線治療は、高エネルギーのX線などをがんの部分に直接あてることでがんを小さくする治療です。放射線療法単独で行うよりも、化学療法と同時に行うとがんに対する治療効果が増します。放射線単独療法は、外科手術や化学療法を行うことが難しいと判断された方に行うことがあります。
化学療法、放射線療法のいずれも単独でがんを小さくする効果が期待できる治療ですが、2つを組み合わせて同時に行う化学放射線療法はお互いの相乗効果により治療効果が増す有効な治療方法です。病期(ステージ)分類Ⅰ~Ⅲの食道がんでは外科手術と遜色ない治療成績も報告されています。
この症状があれば「食道がん・胃がん」という症状はありません。上記で説明したような食道と胃の症状が少しでもある場合は、まず食道がん・胃がんがあるかどうかを調べるための検査を受けましょう。
食道がん・胃がんがあるかどうかを調べるための検査としては、胃内視鏡検査(胃カメラ検査)が重要かつ必要です。
胃内視鏡検査(胃カメラ検査)は粘膜の微細な変化しか認めない早期の食道がんであっても見つけることが可能です。特にオリンパス社製の胃内視鏡(胃カメラ)にはNBI(Narrow Band Imaging)という狭帯域光観察が可能で、NBIを用いて食道、胃を観察すると非常に高い精度で早期の食道がんも発見可能となります。当クリニックで用いている胃内視鏡(胃カメラ)は狭帯域光観察モードだけでなく、より高精度にがんを診断可能な表面構造を拡大してみることができる拡大観察機能も備えた最新鋭のオリンパス社製の胃内視鏡(胃カメラ)です。
この高性能な胃内視鏡(胃カメラ)での観察に加えて、少しでも食道がんが疑われた際にはヨードという色素を用いた染色法(ヨード染色)を用いて、不染帯となったがんが疑われた部分から生検による顕微鏡を用いた病理組織診断を行うことで確定診断します。胃がんが疑われると、病変部位をがんであるか、どのような種類のがん細胞かを確定するための検査である生検を行います。胃レントゲン検査では生検検査が出来ませんので、この点が大きく異なります。
食道がんは、早期で発見できれば5年生存率は75%以上あります。
ただ、食道がんができても初期の段階では自覚症状はほぼなく、違和感が出た時には進行しているのが特徴です。
高精度の内視鏡検査を行うことで、より早期に食道がんが発見でき治療することが可能になります。また、40歳からの食道がんリスクは男女とも高くなり、喫煙や飲酒が習慣化されている男性の場合はさらにリスクが高くなることを認識しておきましょう。