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Endoscopist Doctor's Knowledge
好酸球という言葉をご存じでしょうか? 好酸球は 白血球の一種で、主にはアレルギー反応や喘息、そして寄生虫感染に対する身体応答で重要な役割を果たしています。好酸球は、アレルギー疾患における炎症の一因ですが、一方で、寄生虫に対して体を守る免疫機能を担っています。この好酸球がときに、好酸球により特定の臓器が炎症を起こしてしまうことで、身体症状が現れることがあります。
好酸球は通常、血液中の白血球の7%未満を占めています(1マイクロリットル当たり100~500個[1リットル当たり0.1~0.5×109個])。
この好酸球が減少したり、増加したりすると様々な疾患が生じます。血液中の好酸球が減少する好酸球減少症は、クッシング症候群、敗血症、ステロイド治療でみられることがあります。一方で、好酸球数が増加する好酸球増多症は、薬に対する過敏症、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患で生じます。そして、寄生虫(特に組織に侵入するもの)が好酸球増多症の原因になります。消化器系で有名な寄生虫感染症は青魚を生食することで発症することが多い胃アニサキス症です。また、がんでも好中球が装荷する場合があり、ホジキンリンパ腫、白血病、特定の骨髄増殖性腫瘍などがあります。
好酸球数がわずかに変化(増加、減少)しただけでは、症状が現れることは通常ありません。血液中の好酸球数の変化は、他の理由で血液検査を行ったときに偶然指摘されることがほとんどです。しかし、特に好酸球数が非常に多い場合は好酸球数の増加により組織が炎症を起こし、臓器損傷を起こすようになります。この炎症は、体内のあらゆる部位で起こり、さまざまな臓器が影響を受ける可能性があります。
好酸球性食道炎は食物や空気中の物質が原因となってアレルギー反応が食道の粘膜を中心におこり、食道の壁が多数の好酸球(アレルギーの時に増加する白血球の一種)で満たされる炎症性疾患です。
乳児期から若年成人期までのあらゆる時期から現れる可能性があり、ときには高齢者に発生することもあります。一般的に30歳から50歳代の男性に多くみられますが、発症は比較的稀とされていますが、気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの他のアレルギー疾患を持っている人に合併しやすいと考えられています。
内視鏡では、輪状溝、白斑、縦走溝が特徴的な所見となります。
主に食物の表面にある抗原(アレルゲン)に対する慢性的なアレルギー反応によって食道に炎症が生じると考えられています。食道の粘膜に抗原が接触するとアレルギー反応を生じ、そのシグナルによって食道に好酸球がたくさん集まり、好酸球から分泌される蛋白やアレルギー反応によって誘導される蛋白が、食道に慢性的な炎症を引き起こすというメカニズムが考えられています。このような状態が持続すると食道の動きが悪くなったり(ぜん動障害)、狭くなったり(狭窄)します。
この反応は、食事を摂取後に短時間でじんましんやかゆみ、下痢などが生じる即時型の食物アレルギーとは異なり、慢性的に生じるため、血液検査(特異的IgE抗体など)や皮膚テストで原因となる抗原を見つけ出すことは困難です。
食品や花粉のアレルゲンによって誘発されることが多いものの、アレルゲンが特定されない場合(原因不明)もあります。また、アレルギー疾患の家族歴がある人は発症のリスクが高いとされています。
遺伝的な危険因子をもつ人において、特定の食べものに対するアレルギー反応によって引き起こされる場合があり、アレルギー反応により炎症が生じて食道が刺激されます。治療しなければ、炎症によって最終的には食道が慢性的に狭くなる狭窄が起こることがあります。
多くの病気には遺伝的な要因と環境的な要因が関与しますが、遺伝的な要因よりも環境的な要因が発症に強く関連していることが報告されています。
胃食道逆流症(GERD)と同様の症状、胸やけ、呑酸、嘔吐、嚥下困難、食物のつかえ、腹痛等の種々の症状が主訴となりうることが知られていますが、特に胸やけ(胸骨の裏側の焼けつくような痛み)がみられることが多くあります。
好酸球性食道炎では嚥下障害の症状がみられることが多いです。重症の場合は炎症が繰り返されることで食道粘膜が硬く、狭くなる食道狭窄を起こすこともあります。好酸球性食道炎が長期にわたり続いていると、狭窄によって、しばしば嚥下困難がみられ、食道に食べものがとどまることがあります(食道での食物のつかえ)。喘息や湿疹など、別のアレルギー疾患が併存している人もいます。
いずれの症状も好酸球性食道炎に特有の症状ではなく、逆流性食道炎や進行食道がんの症状と区別することが難しい場合があるので注意が必要です。
乳児や小児では、哺乳をしなくなったり食事を拒んだり、嘔吐、体重減少、腹痛、胸痛を訴えることが多くみられるようになります。通常と違う様子が続くようであれば早めに医療機関に受診されることをお勧めします。
好酸球が食道のみに集まった場合に好酸球性食道炎ですが、胃や腸にも集まって炎症が起きている場合には、好酸球性胃腸炎と診断されます。
好酸球性食道炎の有無を確認するためには、胃内視鏡検査で確認することが重要です。年齢にかかわらず典型的な治療法で回復しない胃食道逆流症の症状がある人や、内視鏡をした際に食道に食物が停滞している成人では、好酸球性食道炎が疑われます。
食道を観察した際に、生検と呼ばれる顕微鏡で調べるための組織サンプルを採取して、顕微鏡で好酸球を確認することで診断します。
また、可能性のある誘因を特定するために食物アレルギーの検査も行うことがあります。誘因を特定するために、皮膚テストと血液の放射性アレルゲン吸着試験(RAST)も行われることがありますが、アレルギーの原因となる物質の診断を確定するのは難しいとされています。
食道に好酸球が集まる病気には、好酸球性食道炎以外に好酸球性胃腸炎、好酸球増多症候群、薬剤性、炎症性腸疾患があるので、診断をするうえでこれらの疾患がないかどうかを確認することも大切です。
薬物治療が中心で胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、PPI)を用います。この薬は逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍でも用いられ、長期内服でも比較的安全性の高い薬です。胃酸の分泌を抑えることで、食道のバリア機能が改善してアレルギー反応を抑える効果があると考えられており、服用によって約6~7割の患者さんは症状や食道の炎症が改善します。
効果が不十分である場合には、ステロイド剤を使用します。喘息で用いられるステロイド吸入薬を吸入するのではなく、飲み込んで食道に付着させる、局所ステロイド療法を行います。その場合、局所ステロイドを口腔内に投与した後にゆっくり嚥下させて、食道粘膜に直接作用させます。
食事によるアレルギーが考えられる場合、食事内容を記録し可能性のある食べ物を避けるように指導します。通常、食事の変更は成人より小児で効果的です。また、アレルギー検査で特定された食物アレルギーがある場合は、その食べものを食事から排除するか、小麦、魚介類、ナッツ類、卵、大豆を排除した食事に変更します。海外では、小麦、乳製品、卵、大豆、ナッツ類、魚介類の6種類の食事を除去する抗原除去食の摂取によって約7割が改善すると報告されています
食道が狭くなっている場合は、内視鏡検査の際に食道内でバルーンを膨らませて、食道を拡張します。多くの場合、食道が裂けないようにバルーンを小さなものから徐々に大きなものにしていき何度か拡張を行うことが必要になります。
好酸球性食道炎は、主に食事に伴うアレルゲンにより主に好酸球という白血球が増加し、食道粘膜に炎症を起こすことで生じるアレルギー疾患です。
胃食道逆流症(GERD)と同様の症状である胸やけ、呑酸、嘔吐、嚥下困難、食物のつかえ、そして嚥下障害を生じることが多いですが、特定の症状があれば好酸球性食道炎であるわけではないので注意が必要です。
診断には、高精度の胃内視鏡検査を行うことが重要です。区別しなければいけない逆流性食道炎、薬剤性食道炎、咽頭がん、食道がんがあるかどうかを確実に診断し、好酸球性食道炎が疑わしい場合は、生検を行い組織診断で好酸球が増えていることを確認することが必要です。
症状の判断に困った場合は、消化器専門医のいる医療機関受診をお勧めします。