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Endoscopist Doctor's Knowledge
便秘とは、本来体外に排出するべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態です。
便秘により医療が必要となるほどの症状が出現した状態が便秘症です。排便回数の減少による腹部膨満感、排便時痛、硬い便により便に血液が付くなどの症状を伴う場合もあります。その他にも腹痛・吐き気・胃もたれ・食欲の低下などの多くの症状が起こります。
便秘症は、以前は一般的に排便が週に3回以下と少ない状態と定義されていました。排便回数が重要な項目であり、3日以上排便されない状態が続くと便秘であると考えられていました。最近では定義が新しくなり、例えば1日1回規則正しく排便されていても排便後のすっきり感を得られない、便が硬くてなかなか排便できない状態であれば、便秘であるといえます。
便秘症の症状には、以下のようなものがあります。
腹痛:便秘によって腸内の圧力が高まり、腹部に痛みを感じること。
膨満感:便やガスが多くなりお腹が張っている感じがでること。
排便困難:便が硬くなり、排便が難しくなること。
残便感:便を完全に排泄できない感覚がでること。
頻回便:便秘の解消を試みて頻繁にトイレに行くこと。
排便時に強くいきむ:便が硬いために必要以上に腹圧をかけること。
排便に伴う不快な症状があることで、具体的には以下の症状が考えられます。
* 1週間に2回以下と便の回数が極端に少ない
* 便が岩のように硬い
* 排便時に5分以上かかり、うまく排出できない
* 排便をしてもまだ残っているような残便感がある
以前は便の回数に重きを置かれていましたが、例えば、3日に1回でもすっきりと排便できるようで、患者さんが腹部症状に困っていなければ排便回数自体はあまり問題ではありません。たとえ毎日排便があったとしても、すっきりしなかったり、残便感があったりする場合は便秘症とみなすことができます。
最近注目されているのは、高血圧、心疾患をお持ちの方が排便困難でいきむ事で更なる血圧上昇を起こしてしまう事です。高齢の方は特に気をつける必要があります。
便秘は、便が腸の中を進んで行くなかで水分が吸収され少なくなることと強く関係しています。口から入る食べ物・飲み物の水分は1日約2Lになります。それに、胃腸から分泌される消化液が加わりますので大腸にはかなり大量の水分が流れこみます。大腸の役割の一つに水分の吸収があります。流れ込んできた水分のほとんどは大腸を通過する際に吸収されて、食べ物の残りかすが適度な硬さの塊になります。大腸内での水分吸収量が少し増えるだけでも便が硬くなり、便秘になりやすくなります。逆に水分吸収量が少しでも減れば便が緩くなり、軟便や下痢になります。
✓ 疾患によるもの
大腸の病気による便秘症である器質性と、大腸の病気に関係ない機能性に分けられ、それぞれ原因が異なります。
器質性便秘は、大腸がんや手術後の癒着、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などのために、大腸の中を便がスムーズに通過できずに起こる便秘です。女性で、直腸の一部が腟に入り込んでしまう直腸瘤も、よくある原因です。器質性便秘では、まず便秘のもとになった病気を治すことが前提となります。
機能性便秘は、甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症では大腸のぜん動運動が弱くなり、便秘がちになります。いずれも女性に多い病気です。女性の場合、病気とは別ですが、生理や妊娠中にホルモンの影響で便秘になりやすくなります。このほか、神経損傷や糖尿病の合併症などで、神経の働きが不調になった場合も、このタイプの便秘が起こります。
ここでは疾患名を挙げてみます。
内分泌・代謝疾患糖尿病(自律神経障害を伴う)
甲状腺機能低下症、慢性腎不全(尿毒症)
神経疾患脳血管疾患
多発性硬化症、Parkinson病、Hirschsprung病、脊髄損傷、二分脊椎、精神発達遅滞
膠原病
全身性硬化症(強皮症)、皮膚筋炎
変性疾患
アミロイドーシス
精神疾患
うつ病、心気症
大腸の器質的異常
裂孔、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱、直腸瘤、骨盤臓器脱、大腸・直腸がん
✓ 食生活の変化
食事量や食物繊維の不足などによる適切ではない食生活によって生じます。野菜や果物には食物繊維が豊富に含んでいて、食物繊維は排便に関わります。また、食物繊維は糞便中に水分を取り込むため、食物繊維が不足すると糞便が硬くなり便秘が起こりやすくなります。
✓ ストレスや運動不足
運動不足などの生活習慣やストレス、加齢などの影響を受けて、大腸や直腸・肛門の働きが正常でなくなり便秘が起こります。大腸を動かす筋肉が緩んで、ぜん動運動が弱まると、なかなか便が運ばれないために便秘になります。高齢者が便秘しやすい原因の一つです。また、朝食を食べない、運動不足などの乱れた生活習慣による便秘も、これに該当します。ストレスが溜まると自律神経のバランスが崩れます。排便を調節している副交感神経系が機能しなくなり、排便されにくくなるのです。
けいれん性便秘は大腸のぜん動運動に連続性がなくなり、便の通過に時間がかかり過ぎて起こる便秘です。ストレスの影響が強いと考えられています。直腸性便秘は運ばれてきた便が大腸から直腸に入ると、直腸のセンサーが働き便意を催します。そこでトイレに行くと、ふだんは肛門を閉めている肛門括約筋が緩み、排便に至ります。ところが、便意を習慣的に我慢していると神経の感度が鈍って、直腸に便が入っても便意を催さなくなります。女性が便秘しがちな理由の一つです。また最近、温水洗浄便座の水を肛門の奥まで入れるために神経の感度が鈍り、便秘になる人が増えています。
✓ 便の排出を遅らせる医薬品の使用
抗うつ薬、抗コリン薬(ぜん息や頻尿、パーキンソン病などの薬)、せき止め、がん性疼痛や慢性疼痛で使用する医療用麻薬であるオピオイド(モルヒネ,オキシコドン,コデイン,フェンタニル)などは大腸のぜん動運動を抑えるので、副作用で便秘になることがあります。抗がん剤の副作用によっておこる薬剤性末梢神経障害やがん治療に伴う精神的ストレスによる自律神経障害も関与することがあります。
機能性便秘のなかで、症状から排便回数減少型・排便困難型に分けて考えると、自分の症状がどちらに当てはまるかが分かりやすいと思います。さらに詳しくは大腸通過正常型、大腸通過遅延型、便排出障害がありますが、専門的な領域なのでここでは詳しい説明は省きます。
便秘は便の回数が少ない型(排便回数減少型)
便を出すのに困難を伴う型(排便困難型)
に分けられます。
大腸通過正常型は経口摂取不足(食物繊維不足を含む)
大腸通過遅延型(特発性、症候性「代謝内分泌、神経・筋、膠原病、便秘型IBS」、薬剤性)
器質性排出障害(直腸瘤、直腸重積、巨大直腸症、S状結腸瘤)
大腸通過正常型(硬便による排便困難、残便感)
機能性排出障害(骨盤低筋協調運動障害、腹圧低下、直腸知覚低下、直腸収縮力低下)
があります。
他の疾患と異なり、便秘症の診断に検査は必須ではありません。便秘の原因となる病気や他に隠れている病気を探すため検査が必要となります。検査方法は問診や身体診察などにより疑われる疾患で異なりますが、一般的に大腸カメラ(内視鏡検査)、画像検査(CT、超音波検査、X線検査)、大腸通過時間検査、直腸内圧検査などが行われます。大腸カメラ(大腸内視鏡検査)では、腸管の中を直接調べることが出来るため、大腸の腫瘍(良性腫瘍、がんなど)、炎症などが隠れていないかを調べることが出来ます。腹部CT検査では、腹腔内と言われるお腹の中に原因となる腫瘍(大腸・直腸がん、婦人科系がん、悪性リンパ腫)、炎症、腹水がないかを詳細に調べることが出来ます。腹部超音波検査では腸の中にガスや便が溜まっていないかを侵襲が少なく確認できますが、CT検査ほど詳細ではありません。腹部X線検査、便秘によってガスがたまって腸が張っていないかを簡易的に確認することが出来ます。大腸通過時間検査、直腸内圧検査は肛門科や便秘症を専門とし特殊な治療を行う医療機関でしか検査ができない場合が多く、診断においては一般的に行われる検査ではありません。
便秘症の治療には、病気などが原因となっている場合まずは原因となる病気の治療が行われます。そして、規則正しい生活や繊維質の多い食事が大切であると考えられています。しかし、食物繊維が不足しているために起こる便秘は一部でしかなく、その他のタイプでは食物繊維の摂取量を増やしても効果がないということはあまり知られていません。
食事、運動療法だけでは改善に乏しい場合に初めて便秘症治療薬を用いて治療が行われます。一般的に下剤と言われる便秘症治療薬にはさまざまな作用機序がありますが、刺激性下剤と非刺激性下剤の2つに大きく分かれます。
非刺激性下剤は大腸を刺激せず、便が出やすい環境を作るものです。たとえば酸化マグネシウムは便に混じると浸透圧の関係で水分を引き寄せ、便を軟らかくして排便を促し、排便回数を増やします。つまり、体には作用せず便に作用する薬で、安価で安全性も高い薬です。近年、酸化マグネシウム以外の非刺激性下剤の新薬も3種類あり(ルピプロストン、リナクロチド、エロキシバット)、こちらは腸管壁の細胞に作用したり胆汁酸を用いたりして便を柔らかくします。酸化マグネシウムは薬局にもOTC薬剤として販売されていますが、新薬は医療機関でしか処方できませんので、出来るだけ消化器専門医に相談すると良いでしょう。
非刺激性下剤は毎日服用しても問題はありませんし、むしろ毎日服用するべき薬です。便が出るときは自分の体で自然に起こる蠕動(ぜんどう)運動、すなわち大蠕動(だいぜんどう)によって出しており、非刺激性下剤は便が出やすい環境を整える役割を果たしています。一方、刺激性下剤は大腸に直接働きかけるため即効性がありますが、効きすぎることもあります。センノシドは刺激性下剤の代表的なものです。
典型的な良くない下剤の使い方は、普段は極力下剤を使わないようにして、溜まった便を刺激性下剤で一度に出すことです。最初に出る便は硬くなっているため引っかかって非常に出しづらく、刺激性下剤のため蠕動運動は活発になって痛みを生じます。そのため1日に何度も排便があり、最初は硬かった便が下痢様の軟便から水様便になってしまい、場合によってはトイレに間に合わず便失禁を生じることもあります。
基本的には非刺激性下剤を中心に、排便がなかった時に刺激性を使用してみる方法をお勧めしています。直腸や肛門近くにあるのも関わらず便が出ない場合は、浣腸を試してみるのも良い方法の一つです。
そして、腸内環境を整える整腸剤(乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌)の摂取することは、ひどい便秘や下痢を抑える働きがあり、摂取してお腹が張るようなことがなければ積極的に普段から内服することをお勧めします。
便秘症は、排出すべき便を十分量かつ快適に排出できない状態です。
便秘症の診断は比較的容易ですが、その原因が何であるかを確認することが重要です。そのためには画像的な検索、CT検査や大腸内視鏡検査を行うことが必要です。区別しなければいけない疾患として、器質的なものかどうか、大腸直腸がん、クローン病などの炎症による腸管狭窄によるものかどうかを確認する必要があります。そして機能性であれば、その原因に沿った治療法が必要になります。
症状の判断に困った場合、薬物療法を希望する場合、薬物療法がなかなかうまくいかないは、迷わず便秘症が診られる消化器専門医のいる医療機関受診をお勧めします。