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Endoscopist Doctor's Knowledge
「下痢」とは、水分量の多い、液状または液状に近い便が頻繁に排出される状態を指します。
「下痢」と「健康な便」との間にはもう1つ「軟便」という分類があります。柔らかいけど形のある便は「軟便」として、下痢とは区別されます。軟便は、下痢まではいかないものの、健康な便としてはやわらかすぎる状態です。下痢はというと通常より水分が多い便、形のない便の状態になります。
この違いはというと、便に含有される水分量の割合で決まります。水分量が約70~80%であれば健康な便、約80~90%であれば軟便、約90%以上が下痢となるのです。
下痢になると腸内ガス、差し込むような腹痛、便意の切迫を伴うことが多く、下痢が感染性微生物や有害物質によって引き起こされた場合は吐き気や嘔吐を伴います。
下痢が重症になると、重度の脱水症が起こり、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩化物、重炭酸塩などの電解質が血液中から失われることが多くなります。大量の体液と電解質が失われると筋力が低下したように感じるとともに、血圧が低下して失神、心臓の不整脈や筋肉のけいれん、腎前性腎不全などの重篤な障害を引き起こすことがあるので注意が必要です。
✓ 食事、飲酒の不摂生による消化不良
✓ ウイルスや細菌、寄生虫感染症
✓ 薬の副作用
✓ 炎症性疾患
✓ 大腸がん
✓ 過敏性腸症候群
下痢の原因は様々です。急性下痢症はウイルスや細菌などによる感染症(いわゆる食あたり、感染性腸炎)や過度の食事、飲酒による消化不良が原因の大半を占めます。感染症ではノロウイルスやロタウイルスなどウイルス感染、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌O-157、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、ブドウ球菌などの細菌感染、アニサキスなどの寄生虫感染症が原因で下痢症状が引き起こされます。その中でも冬場に二枚貝であるカキの生食が原因で発生するノロウイルスによる下痢は注意が必要です。成人男性でも3個以上生食すれば、下痢症状が出現する可能性があります。
1か月以上続く慢性下痢症の原因は、過敏性腸症候群、薬が原因となる薬剤性腸炎は抗生物質や抗がん剤、胃薬(プロトンポンプ阻害剤)、血圧の薬などどんな薬剤でも起こる可能性があります。炎症性腸疾患と呼ばれる潰瘍性大腸炎やクローン病では、腸粘膜に炎症を起こすことで、漏れ出た浸出液による下痢に加えて血便を伴うことがほとんどです。実は、大腸がんも下痢の原因となることがあります。がんが大きくなり進行がんになると腸管内腔に飛び出してくるので、初期には便が出にくくなる便秘症状ですが、狭いところを便が通過するために下痢となって腸閉塞を起さないようにするためです。また、妊婦さんは下痢や便秘を起こすことが知られています。妊娠中、特に妊娠初期には女性ホルモンが多く分泌され、この女性ホルモンは腸の蠕動にも大きく関与するため、人によって下痢や便秘の原因になります。
浸透圧負荷による下痢
摂取した食物や薬物による浸透物質の増加、吸収不良、または腸管内の浸透物質の異常分泌が考えられます。カフェイン(コーヒー,お茶,コーラ,OTC医薬品の頭痛薬)、過度のフルクトース摂取(リンゴジュース,洋ナシジュース,ブドウ,蜂蜜,ナツメ,ナッツ,イチジク,フルーツ味の清涼飲料,プルーン)、砂糖の代用品であるヘキシトール,ソルビトール,およびマンニトール(無糖ガム,ミント,サクランボ,プルーン)、乳糖(牛乳,アイスクリーム,フローズンヨーグルト,ヨーグルト,ソフトチーズ)、マグネシウム製剤
分泌物の増加/吸収の減少による下痢
腸管の電解質と水分の分泌が吸収を上回った場合に起こります。腸内で腸液などの水分が過剰に分泌され、便の水分量が多くなり、腹痛や頻繁な腸の運動が見られる状態です。そして、腸壁が炎症や損傷により血液成分や細胞内の液体などが滲み出て、便の水分量が増えることでも生じます。
また、腸内に浸透圧の高い食べ物が過剰に取り込まれ、腸で水分がきちんと吸収されないまま排便されることでも下痢は起こります。摂取した食物や薬物による浸透物質の増加、吸収不良、または腸管内の浸透物質の異常分泌で起こります。
運動亢進性による下痢
腸の運動が異常に亢進し、便の通過スピードが速くなって生じる下痢です。ストレスや暴飲暴食による環境因子、冷え、ストレスなどによる自律神経の乱れが挙げられます。下痢型過敏性腸症候群がこれに当てはまります。
多くは自然に軽快することが多い下痢症状ですが、放置してはいけない注意すべき下痢症状がいくつかあります。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
特定の所見があれば、下痢を生じているより深刻な原因が疑われます。
一番大事な点は問診です。問診によって下痢の状態、他の症状の有無、既往歴、食事内容、服用中の薬、渡航歴などについて聞くことが重要になります。特に食事歴と発症時間を把握することは細菌、ウイルス感染症のげんいんを特定するのに大事な項目です。
実は急性下痢症の 90%以上は感染症が原因であって自然軽快するので、下痢だからといって特別な検査や 抗菌薬投与は必要ないことが多くあります。そのため、軽症の急性下痢症の患者の中から、追加の検査、治療が必要であるかを適切に診断して対応することが重要になります。
ウイルス性腸炎が原因と考えられ、医療機関や食事の調理施設に勤務している場合は原因になっているウイルスを調べる検査を行うことがあります。ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどを疑う場合は、簡易検査キットを用います。他の病原体が疑われる場合は、便を専門機関で検査することもあります。
全身の状態を評価するために、血液検査を行うことが多くあります。尿素窒素やクレアチニンの値から、脱水状態であるかどうかが判断できます。
最近処方された抗菌薬使用が原因になっている可能性がある胃腸炎が疑われた場合、CDトキシンという特殊な毒素が出ていないか、便検査を行うことがあります。
長く続く下痢の場合は、他に深刻な病気が隠れていないか、大腸内視鏡検査、腹部超音波検査やCT検査を行い、胃腸や大腸に炎症や腫瘍がないかを調べます。また、より詳しい血液検査を行い、原因を調べることもあります。
下痢の原因に対して治療が行われます。水分補給を最優先し、その上で必要に応じて抗菌剤、整腸剤などを使用します。例えば、食事や薬が原因の場合はそれを避け、寄生虫感染症の場合はそれを根絶する薬が投与されます。しかし、多くの場合は、自然に治ります。ウイルス感染による下痢は、通常24~48時間で自然に回復します。がんなどの腫瘍が原因である場合は切除を考慮します。
ウイルスや細菌などの微生物感染が原因で発症する下痢は基本的に下痢止めを使用しません。下痢を止める医薬品を服用すると、排便がされず原因微生物が体内に残ってしまい、治るどころか逆に悪化してしまうことがあるためです。そのため微生物感染による下痢は脱水症状に気を付けながら、少量ずつ水分摂取を行い体力の回復を待つのです。
脱水
脱水がみられる患者には、水分、糖分、塩分のバランスをとった液体を補給する必要があります。患者が過度に嘔吐していないかぎり、通常は液体をこまめに口から補給することが重要です。病状が重篤な患者や血液検査で顕著な電解質異常がみられる場合には輸液が必要で、入院を要することもあります。
薬剤
抗がん治療を行っていると、抗がん剤などの副作用により下痢や嘔吐を起こしやすくなります。また、何らかの基礎疾患治療中に医薬品の副作用で起こる下痢はロペラミドなどの下痢止め薬を用いて治療を行います。
ストレス
不安や緊張などストレスを感じると、自律神経のバランスが崩れて下痢や便秘を引き起こすことがあるといわれています。また、下痢と便秘を繰り返すこともあるようです。ストレスかなと思ったら疲れをためないよう、ゆっくり休息する時間をとるようにしましょう。
消化の良い食べ物を選び、調理方法を工夫する
消化の良いものを選んで食べるようにしましょう。下痢になった時に胃腸に優しい食事を摂ることは、症状の緩和や体力の回復を促します。下痢の症状がある時には、生もの、生野菜を避けて、消化しやすくて胃腸に負担をかけない食品を選ぶことが大切です。脂肪分の少ない鶏のささみ、白身魚、おかゆ、卵がゆ、煮込みうどん、湯豆腐、煮びたし、よく煮た野菜スープなどがおすすめです。
下痢の原因や症状、個々の体調に合わせて食事内容を工夫し、胃腸にやさしい食事で早期回復を目指しましょう。
胃酸の分泌を促すものを避ける
香辛料、甘いもの、酸っぱいもの、アルコール、炭酸飲料、カフェイン入り飲料、コーヒーなどは、できる限り避けましょう。アルコールは胃腸の粘膜を刺激し、腸の運動を促進することがあります。刺激の強い料理や脂っこい食品も同様に胃腸を刺激し、胃腸に刺激を与えて症状を悪化させる可能性があるため、下痢の症状がある時には避けたほうが良いでしょう。
特に下痢に加えて嘔吐がある場合には、脱水症状を起こす可能性が高くなります。糖分と電解質をバランスよく含んだ経口補水液、スポーツドリンク、湯冷まし、常温のミネラルウォーターなどでこまめに水分補給を行いましょう。
下痢の原因や下痢を引き起こす主な病気、下痢になったときの注意点、下痢の原因の検査などについて解説してきました。日常生活上で起こる下痢のうち、短時間ですぐに治まるときや繰り返さずにその場限りで治まるときは、問題のないことがほとんどです。しかし、下痢がいつまでも続き、よくならないようなときは一度医療機関への受診を検討したほうがよいでしょう。
自分では大したことのない原因だと思っていても、炎症性腸疾患や大腸がんなどの思わぬ病気が隠れている場合も考えられます。必要に応じて血液検査、大腸内視鏡検査、腹部超音波検査、腹部CTなどの検査を受けることが必要です。
強い症状、つらい症状が続く場合、受診に迷う場合など、自分自身で解決できない場合は一度消化器内科へ受診をするようにしましょう。